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通訳翻訳情報

Web翻訳とは?

(月刊 「eとらんす」 2001年8月号P6〜P8から抜粋)


■ 文書翻訳との違い

Web翻訳は単なる翻訳作業である。英語を日本語に、そしてときとして日本語を英語にするわけだから、基本となる作業は翻訳そのものだ。何をばかげたことを言っているのかと叱られそうだが、それで終わらせてはならないのがIT時代の翻訳だろう。従来の翻訳作業と変わらなければ、今回特集を組む意味がない。
文書翻訳と根本的に違う点を3つだけあげてみよう。

リリースするまでのタイミング
更新頻度
プレゼンテーション

リリースするまでのタイミングは圧倒的にWeb翻訳の方が早い。通常の文書翻訳が出版されるまでには、少なくとも数ヶ月を要する。オリジナル完成から、いわゆる文芸ものだったら1ヶ月程度かかってしまう。Web翻訳だったらそうはいかない。なぜそうなるのか。Web作成者は、多くの場合、編集者兼Web所有者であり、翻訳完成イコール承認、即出版を意味し、従来の編集→校正→印刷→取次→販売の構図が見事欠落しているためだ。

次に、紙ベースと比べ問題にならないほど高いのはWebの更新頻度だ。これは迅速な情報提供に優れており、マーケティング目的で使用されるというWeb特性と深く関係している。最新情報が刻一刻と更新され、マーケティング力を向上させるため、新製品・サービスなどを他社に負けてはならじと宣伝する。言わずもがな、プレゼンテーションは大いに異なる。紙と画面。映り方に雲泥の差がある。

出版するコンテンツをWebサーバーへ転送すれば、すぐにでも消費者(読者)の目にふれる可能性がある。このため、Web作者は読者を身近に感じざる得ない。こうして、電子文化におけるライティングスタイルが自然と口語に近づいていくのは、アメリカのメディア学者オングが「第2の口承文化」(Secondary Orality)として指摘している通りだ。


■ ソフトウェア翻訳との違い

スタティック(static)、静的→ソフトウェア翻訳

ダイナミック(dynamic)、動的→Web翻訳


ダイナミックとは、ソフトウェア稼動時に機能の追加変更が可能だったり、稼動時に他のモジュールをリンクさせたりできるという特質をあらわす。ここでは、ダイナミックを比喩的に使っているので、Webコンテンツ追加・変更時の手間、またはそれに伴う資源や時間を指している。ダイナミックであればあるほど、機能の追加・変更に手間がかからず、資源や時間も最小限で済む。

ソフトウェアは紙に比べればダイナミックだが、それでもまだそのダイナミックさはWebに劣ってしまう。ダイナミックという観点で、文書、ソフトウェア、Webを比較するとこうなるだろう。

文書<ソフトウェア<Web

いくら時間を掛けてソフトウェアをテストしたところで、リリースしてから必ずバグが見つかる。メーカーはバグを解決しバグ対応プログラムとしてリリースする。かといって、そう頻繁に新リリースを発表できるわけではない。従来のやり方だとCD‐ROMに焼いてそれを梱包して・・などと時間がかかるからだ。Webはこの問題を一気に解決した。
Web経由でバグ対応修正プログラムを発表できるようになり、ダイナミックなソフトリリース運用が可能となった。メーカーにとってもユーザーにとってもこれは朗報でしかない。ただし、メーカーがリリース前のテストケースを十分消化せずとも、バグ修正ができてしまう運用システムなため、こっそり修正しリリースプログラムをWebへアップロードして、澄ました顔をしているメーカーが増えそうで多少不安ではある。
次にWeb翻訳者に求められるのは何かを考えてみる。


■ Web翻訳者に必要な資質・知識・技能

1. 資質

Web翻訳はマーケティング翻訳
翻訳に必要とされる資質がその土台となるのは言うまでもない。英語の読解力、日本語の表現力、調査力、そして何といっても忍耐力。これに加え、Web翻訳がマーケティング翻訳である点を考慮に入れると、マーケティングセンスを翻訳に表出させる翻訳技能もWeb翻訳には大いに求められる。
文章スタイルは硬くても軟らかくてもいけない。お客様(ユーザー)に失礼にならない、程よい翻訳スタイルが好ましい。業界ごとに翻訳スタイルを変えられる翻訳カメレオンがひっぱりだこで、自分の文章スタイルがあまりにも固まっている人は、マーケティング翻訳には向かない。
翻訳業界はこのところ専門特化型が主流のようだが、Web翻訳の世界ではまだ特化までには至っていない。一昔前の「なんでも屋」が受けている。ビジネス経験があればプラスだが、対顧客向けの言葉が身についていれば申し分ない。
マーケティング翻訳にはときとしてコピーライターの素養も要求される。

2. 知識

知識という観点から次の3点をあげてみたい。

日英ビジネスの背景を知る
Web構成を知る
便利な年次報告書

日英ビジネスの背景を知る
日本のようにお客様が神様の世界では、神様と人間に話し掛ける言葉を使い分けなければならない。Webがライティングスタイルを口語化させているとしても、神様への言葉遣いまでは変えられるものではない。
一方、人の上に人をつくらずのアメリカビジネス文化の場合、お客様だろうが、召使いだろうが、それほど言葉遣いの変容は見られない。むしろ、普遍的な言葉遣いが尊ばれる。それがWebに掲載されれば、されに平易な言葉が好まれ、ビジネスといえども、What’s New?となる。もちろんこれはWeb翻訳で頻出する言葉。日本語では、最新情報。

結論は次のとおり。

英日Web翻訳→スタイルを落ち着かせる
日英Web翻訳→親しみやすいスタイルを目指す

Web構成を知る
木を見て森を見ず。これが大量翻訳作業時の命取りとなる。森ばかりを見て木を見ないのも困りものだが、森が見えれば自然に木も見えてくる。しかし、Web翻訳の場合、全体像をつかむ暇もなく作業を開始しなければいけないのが現状かもしれない。それでも、全体像をつかむまではツールを起動させないくらいの覚悟が必要だろう。
全体像とは言うまでもなくWebの全体構成のこと。総じて民間企業のWeb構成は類似しているという驚くべき事実がある。これは、各企業がWeb構築に乗り出す際、既存のWebを参考にしたためにおこった現象で、Web翻訳者としては願ってもみないことである。翻訳作業時に既存の資源(表現、用語)が参考になる。ありがたいことこの上ない。Web構成の共通項はおよそ次の通り。

会社概要(About us)
製品紹介(Product)
サービス(Services)
最新情報(What’s New)
プレスリリース(Press Release)
お問い合わせ(contact)
著作権(Copyright)

それぞれの項目の中分類、小分類がどのようなものか、今度サーチするときに少し気にとめていただきたい。
ひとつ念頭においておきたいのは、構成の相違からくるWeb翻訳の等価性ついて。そもそも翻訳とは等価でなければならないが、文化で異なる構成が求められるWeb翻訳の場合、構成を変える必要が充分考えられる。たとえば会社概要のページを比較してみよう。
英語では会社概要を文章で綴り、日本語では表で表す傾向があるのだとしたら、翻訳課程で原語のスタイルを踏襲するのが必ずしも得策とはいえない。Web翻訳者は、単なる翻訳者としてだけではなく、Webコンサルタントとして構成上の注意点も助言するよう心がけたい。

便利な年次報告書
日本の株式市場は機関投資家が支配する。失礼かもしれないが、翻訳者を目指す(または翻訳を職業とする)読者のみなさんが株主である確率はあまり高いとは思えない。ちなみ倹にこの私はというと、株を売りながら生計を立てるような倹しい暮らしが何年も続いている。ぜひ株主になって年次報告書を毎年手にして読んで欲しい。

年次報告書ほどWeb翻訳に最適な参考書はない。年次報告書は大きく分けて4つの要素から構成される。

政治 経営者によるあいさつ
経済 財務諸表関連
法律 公認会計士、弁護士などによる監査
技術 製品、技術、サービスなど

ビジネスの核が、しかもマーケティング意識下にひとつの文書としてまとまっている。これを放っておく手はない。Webにそのままの形で年次報告書が掲載されることもあり、日英両言語で目を通しておくとボキャビルアップにもつながる。Web翻訳でなくとも、ビジネス翻訳にはお勧めしたい参考書のひとつだ。

さて、気になる技能について簡単にまとめてみよう。

3. 技能

タグを扱う
生のHTML(今後はXML)ファイルに翻訳を入力する作業が求められるかどうかは、プロジェクトごとに異なるだろう。しかし、たとえHTMLの中味を触らないとしても、基礎的なタグを知っているに越したことはない。タグ、と聞かれて、百貨店の正礼を思い浮かべた読者でさえもWeb翻訳はできる。メモ帳などの簡単なツールで翻訳できるので、HTMLファイルを編集する経験を一度は味わっておいていただきたい。

タグエディタ
タグを触る機会が減少する一方の世の中において、ソフトウェアが氾濫し、ますます作業者をコードから遠ざけている。メモリが安価になるにつれ、作業負担をみなメモリを駆使することで解消し、ユーザーは涼しい顔で作業をする。タグエディタの登場でどれだけ涼しい顔ができる人が増えたことか。もちろん、Web作成ツールにしてもしかり。タグから自分を遠ざければ遠ざけるほど操作自体は容易になる反面、本筋とは違ったところで作業をするようになる。

HTMLタグを扱えるようになれ、と言っておきながら矛盾するようだが、タグエディタを使えばユーザーは原則としてタグに触らずにWebを作成できる。とにかくツールに関しては実際に使ってみてどれが自分にあっているかを確かめるのが先決のようだ。タグエディタとメモリ、オンライン辞書が同時に使え、お試し版を無料ダウンロードできるトラドスはお勧めのひとつだろう。

MTの取り込みと今後
Webのリンクを見ると単語がやたらと目立つ。しかも、いたるところで繰り返し使われる単語が多い。登場するごとに訳していては、単語と言えども時間の無駄だ。そこで、MTの出番となる。ソフトウェア翻訳同様、いかにMTをWeb翻訳にかませるか。これが今後の課題となるのは必至である。

Javaスクリプトからグラフィック、さらにはMTに既存のメモリーを参照させながら更新箇所だけの自動翻訳。人間の目によるチェックはほんの数分。夢のようなWeb翻訳システムができあがるのはまだまだ先のことだろう。もちろん、質を問わなければ、システムインフラ構築自体には時間を要さない。ところが、英語、日本語などの自然言語自体が統一されない限り、運用に人間が入り込まなければ翻訳の品質は保証できない。

Web作成者に最後に一言
Web作成者の読者は少ないと思うが、ひょっとしたらそのような方も読んでいらっしゃることを期待しつつ、翻訳依頼者への注意点を申し上げて本稿の終わりとしたい。Web翻訳の現状という問題に立ち返って考察してみると、Web翻訳を依頼する企業は、Web翻訳用のページを作成するのが慣用になっている。Web翻訳に要するコスト削減を目指すためにも、Web翻訳依頼者への一言を一覧にしてみた。

ターゲット層を決める(iモード用のI/F、見映え)
更新頻度(翻訳頻度)を最小限に抑える
翻訳が必要なグラフィックファイルは使用しない(リンクはテキストでつくれ)

そして何と言っても、既存のWebを翻訳するのではなく、翻訳用Webを新規作成することをお勧めしたい。


■ まとめ

IT翻訳の将来を予測することはむずかしいが、近未来の予想は可能だろう。ソフトウェア翻訳が多角化する中、ソフトウェア翻訳がWeb翻訳へ移行し、Web翻訳は確実に伸びていく。少なくとも、今後数年の間、Web翻訳が主流となり、言語で考えると、日英・英日だけではなく、欧州・アジア勢も果敢にWeb翻訳市場に参画する。もはや日英・英日の翻訳の世界だけではないマルチリンガル翻訳の台頭だ。新たなバーチャル地球村へ向けて、Web翻訳、そして忘れてはならないWeb翻訳“者”の果たす役割は大きい。




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