通訳翻訳情報
世界の翻訳資格
(月刊 「eとらんす」 2001年2月号P34〜P36から抜粋)
■ ATA認定試験
受験者数と合格率
ATA認定試験を担当するハンレン氏によると、毎年800〜1,000名が受験し、合格率はおよそ2割程度となっている。言語別の合格状況は明らかにされていない。ATA会員になってから4週間経過していることが受験資格となっている。これは正式な会員登録が済むのに4週間かかるためだ。残念ながら、ATA非会員に受験資格はない。
受験分野は5つ
分野は、一般、科学・医学、科学一般、ビジネス・法律、小説の5つ。科学一般と言っているものには、英語ではsemi-technical。つまり、コンテンツは科学だが、雑誌記事などからの抜粋となり、完全なテクニカル翻訳ではない。それに対して、科学・医学は本格的なテクニカル翻訳である。
チャンスをくれる
ATA翻訳者認定試験では、5つの分野から3つを選択し、そのうち最低2つを提出する。テキストの内容を見て分野を選択できるのは何ともおもしろい。一つのテキストは、英語ワード数にて275〜300。
多言語国家アメリカ
スペイン語の受験者が、受験者総数の5割を占めている。
手書き翻訳
試験時間は3時間。持ち込みは可だが、電子の資料(コンピュータ、電子辞書)の持込は禁止されている。試験は筆記で行う。絶対手書きでなければならない。
多数決の国
2人の判定者がまず試験に目を通し、合否判定が同じなら結果がすんなり決まる。異なる判定が出されると、第三の判定者に答案がまわされ、多数決で合否が決まる。採点の基準にはさまざまな項目があげられている。参考まで、以下にまとめておこう。
・訳抜け、原文・翻訳文における誤解、意味の付加、削除、用語、レジスタ(用
語のレベル)、超訳、直訳以前、文法的ミス、表記ミス、誤字・脱字、スタイル、不統一など
通常は、合否の結果が受験者に伝えられ、希望者だけに内容の講評が行われる。希望者といってももちろん講評料は払わなければならない。セット価格で130ドル。日本円にして1万4〜5,000円といったところ。
リサイクルの原理
前年のテストは翌年、模擬試験として再利用される。模擬試験の受験料は1分野につき40ドル。講評を受け取るまでに6〜8週間かかる。これは試験運営という面からいっても、とても賢いやり方だ。主催側としては、過去の資産を活用し、増収に結び付けられる。受験者からすれば、試験の練習になり、その結果、合格率もあがる。試験に対するクレームなども減るだろう。
試験にふさわしい内容とは
一般、科学、ビジネス・法律の3分野だったと記憶する。大学高学年程度の実力があれば、何とかこなせるのではないか、というレベルだ。
英語のテキストは、日常よく目にするような新聞や雑誌の類からの抜粋だった。やはり雑誌や新聞などの比較的短めのテキストからの出題にならざるを得ない。テキスト全体についての文脈の説明がなくても、難なく翻訳が出来る。これが試験用テキストの必要条件だろう。
そういう意味から、検定試験に小説が出題されるのは、いつも疑問に思っている。以前、私は授業で使用したことがあった。わずか数ページの翻訳だが、学生からは、全体を読まなければ到底訳出不可能との指摘を受けた。背景となる舞台や登場人物などを若干説明した上でのことだったが、確かに、全体が300ページもあるテキストの数ページを訳せというほうが無理なのであろう。検定試験に小説はいまだに納得いかない。
当試験のメリット
合格後のメリットだが(1)アメリカ市民権もしくは永住権を持っている場合、準会員(associate)から正式会員(active)への昇格(それ以外の会員は、相互(corresponding)会員への昇格)(2)ATA翻訳登録簿への新規登録(3)協会での投票権が授与される。もちろん、レジュメや名刺などにも、ATA翻訳者認定試験の合格者だということを記載できる。「認定(Accreditation)」という言葉で誤解を受けるかもしれないが、当試験に合格してもATAに雇われるわけではない。プロの翻訳者に値する実力を持っているとATAが認定するだけのこと。会報誌Chronicleに合格者の氏名が発表されるが、さて、実質のメリットたるや、いかなるものだろう。
さらに門戸は広く
ATA非会員への当試験の開放だが、もちろんのこと検討されている。一応、アメリカでは比較的大きな翻訳者団体であるため、非会員として当試験が受験できれば、会員以上にそのメリットは大きいかもしれない。とにかく非会員では受験できないことから、紹介する意義があまりないようも思われたが、他国の検定試験を知るよい機会では。
■ NAATI (National Accreditation
Authority for
Translators and Interpreters)
多言語国家であるオーストラリアの翻訳・通訳の水準を確立・維持することを主な目的に、連邦・州・準州政府の共同出資で設立された独立公共事業団体が、NAATI(National
Accreditation Authority for Translators
and Interpreters)。同国の行政に関する公的文書の翻訳や、国際的な会議での通訳をするには、NAATIの認定が必要条件となっている。
NAATIは独自の認定試験を毎年2回行っており(模擬試験や演習キットなども入手可能)、1998年6月末までに延べ1万157人の翻訳・通訳者に「NAATI認定」のお墨付きが与えられている。
付与される「称号」の等級づけなどは、たとえば日本の翻訳技能審査になぞらえて考えられるが、認定は試験の合否だけに限らないという点が、まず違う。NAATI
Accreditationは、以下の3通りの取得方法がある。
1. NAATIの認定試験の受験
2. NAATI認定のオーストラリア国内翻訳・通訳教育機関からの資格の獲得
3. NAATIが認可する海外の翻訳・通訳教育機関からの資格の獲得
日本から認定をねらう場合、2のやり方で留学してしまうという手もあるが、やはり1の受験が最も一般的だろう。2000/2001年度に試験が実施されている言語は34。
2000/2001年度に行われる日本語翻訳・通訳試験は、
“Paraprofessional Interpreter”
“Translator”“Interpreter”
“Advanced Translator”
の4カテゴリーとなっている。
立派な資格であるのに加え、NAATIからの称号は、オーストラリア永住権の申請資格ポイントに数えられる。翻訳・通訳者になるという夢と、オーストラリアに住むという夢両方に近づけるわけだ。
■ International Federation of
Translators (FIT)
海外の翻訳事情を調べる場合、各国の翻訳者協会にアクセスして情報を得ることが先決だ。そこで、世界60カ国以上の翻訳者協会が名前を連ねて組織しているFITについて紹介しよう。
FITは1953年パリで設立され、現在10万人以上を上回る翻訳者たちの道義的、物質的関心を表明する非政府組織として、また非政府団体という立場を貫いて活動を続けている。翻訳者はFITに個人的に所属するのではなく、各国の団体に所属してはじめてFITの活動に参加できる仕組みだ。気になる翻訳のAccreditationだが、FITが直接発行するものではなく、あくまでも各国の協会に任せている。日本では、日本翻訳家協会が正式メンバーとして、また日本翻訳者協会、(社)日本翻訳協会、(社)日本翻訳連盟の3協会が準メンバーとして加盟している。
FITのホームページ(http://fit-ift.org/english/index-e.html)には各国の翻訳者協会の連絡先が網羅されているので、興味ある国の翻訳事情を知る手がかりとなる。
■ 翻訳検定試験BPL検定の傾向と対策
コンピュータ
「基本文章力」句読点の使い方や送り仮名など。コロンやセミコロンなど、日本語では使わない記号(コンピュータ関係の文書ではよく出てくる)をそのまま訳文に転記しないように注意しましょう。
「注意力」”many APIs”を「多くのAPIs」というように、複数形を表すsを付けたまま転記してしまったり、「サーバ・コンピューターのユーザーインターフェース」というように、長音や中黒の使い方を統一していなかったりというものです。訳抜けも注意力の欠如と見られますが、訳抜けを恐れるあまりに「あなたのCD-ROMをあなたのCD-ROMドライブに差し込んでください」といった逐語訳にならないように注意してください。
「翻訳」は「翻訳基礎力」と「文意理解力」の2つの項目から構成されています。翻訳基礎力とは、構文や修飾関係を間違えて翻訳していたり、きわめて初歩的な誤訳をしていないかどうかを見るものです。「文意理解力」とは原文の意味や文脈を適切には把握せずに逐語訳になっていないかどうかを見るものです。
「文章」の項目では、「文法・語法力」と「文章表現力」が構成要素です。文法・語法力は、日本語として正しい文法を使っているかどうか、正しい言葉を選んでいるかどうかを見るものです。例えば、「新しいファイルを開いたり、既存のファイルを編集する場合」というように、「編集したり」の「たり」を省略してしまうような表現は、プロの翻訳としては失格です。文章表現力は、日本語として自然な文章になっているかどうかを見るものです。「このオプションを選択しておくことは警告メッセージの出力を不能にします」では自然だと言えません。「このオプションを選択しておくと、警告メッセージが出力されなくなります」と訳しましょう。
「知識」は「専門的理解力」の1項目のみです。コンピュータ翻訳では、コンピュータに関する専門的な理解が乏しいと、稚拙な訳文になってしまいます。例えば、”directory”を住所録と訳すと一発でアウトです。しかし、顧客管理データベースなどでは「住所録」と訳す場合もあります。その辺を見極められるかどうかは、専門的な知識の有無に掛かっています。
リーガル
リーガル文書は契約書、法律文書、訴訟文書等が中心となる。受験者にとって「固い」「難しい」というイメージがあるであろうが、正確さ、厳密さという点においては、法的文書は一般の文書の頂に立つものであり、これをマスターすることにより、ビジネス文書、技術文書のライティングが極めて正確で精密になるものである。ビジネス翻訳や、技術翻訳を目指す志望者も是非取り組むべき分野である。
リーガル文書の特徴
契約書も規則も法令も同じ特徴がある。第一に、文体の型が決まっていることである。文体は、権利(することができる)、義務(しなければならない)、禁止(してはならない)、許可(してもよい)の4種である。英文も日本文もこの4種類であるから、翻訳は一定の型に沿えばよく、バラエティがない。この点は学ぶのには楽なはずだ。
第二の特徴として、法的文書は厳密正確に書かねばならない。曖昧に書いてはならない。したがって、どうしても修飾による制限句が長くなる。これは英文も日本文も同じだ。法律翻訳の初学者が取り組んで辟易するのは長い制限修飾句や節のついた文だが、反面、長いためにコンピュータ自動翻訳にかかりにくく翻訳者が手がけざるを得ないという利点もある。法律文書の特徴の第三は、英文・日本文ともに法律用語が多いので、一般の翻訳者にとって慣れない言葉が多いことだが、これは当然で仕方ないこと。翻訳者としては誰でも訳せる一般的な翻訳より競争の少ない特殊分野を狙う方が有利だろう。
厳密で正確な長文が特徴だから、英文の読解においても日本文の表現においてもこれに沿った勉強が必要だ。感性ではなく、論理性の言語の勉強である。このためには英日ともに論理的な法律文書を読むことが大切。それから長文のための構文転換、品詞転換の技術が必要となる。法律用語のボキャブラリーを増やすためには、普段から軟らかい本や雑誌ばかり読まずに、法律や規則を読み、契約書や法律書に目を通して慣れることだ。
法律用語は専門用語とは言え、日常の生活や企業活動に関係があるから、医学用語や技術用語よりは馴染みやすいはず。まずは易しい手近な法律書から入って行こう。それから「六法全書」は必須アイテム。新聞、雑誌しか読まないのに法律翻訳を目標とするのは無理と知ること。
とは言え、法律文は、契約書でも規則でも法律でも、文型にバラエティがなく定まっているので、英日双方の法律文型を学習すれば、そう難しいものではない。きちんと学習すれば容易に実力が上がって行くのが法律翻訳の特徴だ。法律翻訳で厳密正確な文体を身に付けてから、他の部門へ移っていくのが効率的とも言える。
最後に、法律家でないと、あるいは法学部を出てないと駄目ではなかろうかと思わないこと。法律家の判断のための勉強と、法律翻訳‐法律的な文の読解と作成‐は違う。普通の人でも法律文型をマスターし法律用語を知れば、法律文書は訳せるのである。
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